自然の理と文明の理の重なるところに個人の理を探求する。
現在、世界中の人々が様々な形の「危機」に直面しています。各地で起こる軍事危機、経済成長の停滞と社会的不平等、気候変動、政治的な差別や暴力。これまで人類は幾多の危機を乗り越えてきましたが、現代ほど同時並行的に世界規模の危機に直面したことはなかったでしょう。こうした地球規模の課題を解決する糸口もまだ見えていないものの、私たちが出来事に与える意味づけや認識の仕方自体が、避けがたく現代の枠組みに規定された限定的なものであるということは、近年の認知心理学や文化人類学の研究からもわかってきています。つまり、問題の認識そのものから、既に問題がはじまっているというのです。
一つの危機は他の危機と相互に影響し合っており、この複雑な絡み合いの中に私たちは生きています。この絡み合いのほつれに対処するのと同時に、危機を生み出した枠組みである価値観、世界観と向き合っていかなくてはなりません。これまでの在り方を私たちは続けていていいのか?という、とてつもなく大きいながらも、同時に、個々の在り方を深く省みる探求を進めていくことが、これからの社会を創っていく世代には必要です。一般社団法人KOTOWARIは、現代の危機と向き合っていくための本質探求の場を若い世代と共に創り上げています。私たちは、同じ志を持った環境活動家、アーティスト、学者、起業家、教育者、哲学者、慈善家、探求者たちと協働し、これからの時代を創る若い世代が、新たな在り方の可能性を探求していく機会を提供します。
自然は変化に富み、地球上でさまざまな顔を見せますが、その根底にある「理」はどの時代でもどの場所でも同じものでしょう。それは、古代中国の哲学者であった老子の説く「道」に近く、この世界の全てを生み、支え、また無に還している、存在の本質です。一般社団法人KOTOWARIでは、この「理」を知る道のりとして、自然の「理」と文明の「理」に目を向けます。自然と文明は近現代の「世界」の両端を表しています。一人ひとりが、この二つの「理」の重なるところを探求することで、自分自身の「理」を見出していきます。
文明の「理」は、人間が人間のために創り、営んできた世界です。西洋文明の理をリベラルアーツの枠組みを通して知り、過去数世紀にわたる人間の欲望と知識の変遷、社会と自然の関係性がどのように形成されてきたかを理解します。他方、自然の「理」を探求するために、私たちは東洋の叡智に目を向けます。東洋の叡智は、概念的な理解を深めるだけでなく、実践を通して現象をありのままに観る意識を磨くことを説きます。自然の「理」と文明の「理」を探求することで、変わり続ける世界の根底にあるものを見出していきます。この探求を通して、私たちは自分が何者で、何をしているのか、どこに向かおうとしているのかを、よりたしかに知っていくことになるのです。そうした本質の直観的理解に根ざし、自分と社会の在り方を見つめ直していきます。
リベラルアーツの視点を糸口に、世界で問題とされている事象は、一人一人の世界に対する認識や内面の心の働きに根ざしていることを理解する。その上で、非言語的アプローチを用いて、現代社会の前提となっている認識の枠組みから離れたときの実感を得、自らの世界に対する立ち位置を内省を通して見つめ直す。
サマーリトリートで得られた気づきを日常の文脈の中で探求するフェローシップ。古今東西の哲学と非言語的アプローチを日々実践していくことで、自分自身の思考・感情等の揺らぎをありのままに見つめ、変化のある世界の中でも変化しない自己認識、そして自己と世界の繋がりを新たに築いていくための枠組みを知る。
日本古来の精神文化に根ざした概念と土地に焦点を置いた、国内外のリーダーを対象とする巡礼・サミット。自然や神仏に対する畏敬の念、自然・神仏・先祖・人々との繋がりの中に自己を観る世界観、そしてこれらの共通項で結びついた精神の共同体という三つの要素から構成されるプログラムを展開。
野中郁次郎
一橋大学名誉教授
一般社団法人KOTOWARI 理事
「KOTOWARI 」は、これからの日本に求められる教育の雛形となりうる、重要で新しい試みだと感じています。非常に複雑な問題である気候変動や環境問題に取り組んでいく今の若者に必要なのは、問題を表面的にみるのではなく、その根底にある本質を直感する力です。
そのためには、自らの価値観と仲間との「共感」をベースにして、リベラルアーツも取り入れながら、自分の「生き方」と「在り方」を探究していくことが必須です。そうする中で、私たちが求めるべき「意味」が本質的に見えてくるはずです。本サマースクールが、志ある若者たちにとって、これからどのように生きて、どのように社会を良くしていくかを考える大きな一助となることを期待しています。
竹内弘高
国際基督教大学 理事長
一般社団法人KOTOWARI 理事
日本、そして世界の未来は、今の若者たちの能力と知識(暗黙知と形式知)にかかっています。気候変動や環境問題というのは避けては通れない根本的な問題である一方、今の若者は「経済成長」という一見矛盾する課題とも向き合っていかなくてはなりません。この二つを上手く両立させるためには、どうすればいいのか。
本サマースクールは、多くの若者にとって、自分自身と地球の未来について深く考え、新しいビジョンを描くための絶好の機会となるでしょう。私はこれまでKOTOWARIのメンバーたちと共に数々の仕事をしてきましたが、彼らは日本、ひいては世界を動かしていける人材であると確信しています。このサマースクールが若い世代の未来を築く礎となることを願っています。